2020年度開成中国語解説(パート2)
問二 傍線2「親友」にカギ括弧がついていることで、どのような意味になっていますか。「〜という意味ではなく、〜という意味。」の形で答えなさい。
〈先生〉
これは入試で出題されるカギ括弧の働きの基本形の問題ですね。念のため、その基本を確認しましょう。
次の文を見てください。
いかがですか。何か違和感をいだきませんでしたか。
〈生徒〉
はい。コロンブス自身はアメリカに着いたと思っていなかったので、何か変な気がします。
〈先生〉
さすがですね。では、どこに着いたと思っていたのでしょうか。
〈生徒〉
インドです。だから、そこにいた先住民の人々をインディアンと呼ぶようになった。
〈先生〉
いいですね。だとするとさっきの文は変ですよね。
〈生徒〉
はい、発見がおかしいです。
〈先生〉
素晴らしい。では、どこがおかしいのですか。
〈生徒〉
コロンブスが着いた場所にはすでに人がいたのに発見と言っているのが変です。
〈先生〉
そうですね。発見というのは本来、初めて見つける、という意味があるのです。
もともと人がいた場所に対して発見という言葉を使うのはちょっとおかしいですよね。
それなのになぜ発見という言葉を使ったのかが気になりますよね。
それは、コロンブスのいた社会、すなわちヨーロッパではその大陸のことは知られていなかったのです。
だから、ヨーロッパの視点に立つと発見になったということなんです。
〈生徒〉
まさに、この設問の条件に合いますね。
〈先生〉
さすが!
「〜という意味ではなく、〜という意味。」という形に対応していますね。
最初の〜が、その言葉の本来の意味です。
そして、後の〜が、その文脈で使われている意味になります。
このコロンブスの例で言えば、
「世界で初めて見つけたという意味ではなく、コロンブスのいるヨーロッパの中で初めて見つけたという意味」となります。
今学んだカギ括弧の答えはしっかりと覚えておきましょう。
これを基本にして様々な答え方に応用できるようになります。
例えば、「なぜカギ括弧をつけたのか答えなさい」という問題だったとしましょう。
この場合は、「世界で初めて見つけたという意味ではなく、コロンブスのいるヨーロッパの中で初めて見つけたという意味で使われていることを示すため(意味を持たせるため)」と答えます。
基本が理解できていると、問われ方が変わっても大丈夫ですね。
では開成の文脈を確認しましょう。
〈生徒〉
はい。
先生最初の〜には、親友の本来の意味を入れることになりますよね。
その上で、後の〜の親友の意味を本文で調べれるということですね。
〈先生〉
その通りです。
では、文脈上の「親友」はどんな意味になっていますか。
〈生徒〉
直前に「ふたり組で過ごすようになった」とあるので、いつも一緒に過ごす友達ということがわかります。
でも、もしそうだったら「 」をつける必要はないので、直後の段落にある「見て見ぬふりをする」や(中略)の後の楽器決めのところで、カナに気をつかって自分のやりたい楽器をやらなかったことをヒントに考える必要があると思います。
〈先生〉
はい。お見事です。では、どうまとめましょうか。〈
いつも一緒にいるけれども、本音で語り合える友ではないという意味。
〈先生〉
内容的には問題ありませんが、答えに直すのが難しいですね。
設問に「〜という意味ではなく、〜という意味。」で答えなさいとあることと、解答欄が1行であることを加味して書き直してみましょう。
〈生徒〉
何事も打ち明けられる友という意味ではなく、いつも一緒にいるだけの表面的な友という意味。
〈先生〉
いい答えですね。いつも一緒にいるという意味や、本音を隠して付き合っている意味がうかがえる内容になっています。
このように、どこを根拠にして答えているかが明確に伝わる答えを書くことは大切なことです。
開成中の国語(2020年度入試解説をゆっくりやっていきます)
2020年度開成中解説
〈先生〉
それでは、開成中の解説を行います。
この年は、合格者平均点が51.5点(60.6%)、受験者平均点が42.3点(49.8%)でした。
合格者平均点と受験者平均点との差が9.2点、算数の差が10.9点なので、国語でもかなりの差がつくと思っていいですね。
国語の得意な生徒にとっては有利な学校です。
この年は、算数理科社会が受験者平均でも国語で合格者平均プラス5点とれば合格できます。
そう考えるとなんとかなりそうな気がしますよね。
では、1問ずつ丁寧に見ていきましょう。
〈生徒〉
先生、よろしくお願いします。
算数が苦手なので不安でしたが、なんとかなるような気がしてきました。
国語は比較的得意ですが、しっかりと磨きをかけたいと思います。
〈先生〉
はい。
では一番の問一です。
問一 傍線1「同じ班になった『ひなちゃん』という子と仲良くなった」とありますが、めぐ美は、ひなっちと出会ったことで、どのように変わりましたか、説明しなさい。
これは変化を問われたもので、丁寧にたどれば確実に点をとれる問題です。
〈生徒〉
確かに、これは比較的易しく感じました。
変化を問われた問題は何度かやったことがあります。
変化の前、変化のきっかけ、変化の後とを整理して答えればいいんですよね。
〈先生〉
さすがだね。しっかりと勉強しているが伝わってきます。答えの型は、まさにその通りです。
①変化前
②きっかけ
③変化後
この3点を書けばいいんですね。ただし、今回の場合は設問で「ひなっちと出会ったことで」でと変化のきっかけは示されているので、②を書く必要はありません。
では、あなたの答えを教えてもらえますか。
〈生徒〉
答え
未知の世界が広がる本を読むのが好きな内気な子だったが、ひなっちの影響で活発になり友達も増え自信が持てるようになった。
〈先生〉
ちゃんと的を射ていますね。自分なりの工夫も見られるし素晴らしい答えです。
どんなふうに考えたか教えてもらえますか?
〈生徒〉
はい。まず、設問で「ひなっちと出会った」前と後での「めぐ美」の変化を意識して本文を確認しました。
まず変化前のポイントとして、以下の点を押さえました。
・「本が愉しかった頃のことを思い出した。せいぜい小学校の低学年くらいのことだった」
・「膝の上でそっと開くと知らない世界が広がった」
・「低学年の頃の自分は、大人数でわあっと盛り上がるノリには気後れした」
最初の2点からは、本が好きだということがわかります。
そして最後の1点からは、内気な子ということがわかりました。
これをつなげると、「本を読むのが好きな内気な子」となりますが、わざわざ「知らない世界が広がった」と本が好きな理由も書かれているので、それも触れた方がいいと思って、答えの前半を次のようにしました。
「未知の世界が広がる本を読むのが好きな内気な子だったが」
〈先生〉
「未知の世界が広がる」という表現を入れたのは見事ですね。「内気な子」のレベルは開成受験者であれば5年生でも書ける言葉ですからね。本を読む理由も入れてきたのはとってもいいですね。
では、後半をお願いします。
〈生徒〉
はい。次に変化後のポイントを以下のとおり考えました。
・「めぐ美も彼女と同じく『人気者』というポジションの端っこにいた」
・「友達は自然と増えていったし、盛り上がることも楽しめるようになってきた」
・「めぐ美は鬼ごっこやドロケイで活躍したし、友達から、友達の多い子だと思われるようになったら、学校が楽しくなった。その自信は、本からでは、得られないものだった」
体を使う外遊びで活躍しているところから活発な子になっていることがわかります。
また、友達が増えて学校が楽しくなり自信が持てるようになったこともわかるので、次のようにまとめました。
ひなっちの影響で活発になり友達も増え自信が持てるようになった。
〈先生〉
的確ですね。
これなら十分に合格点はとれますね。
では、一緒に文章を振り返ってみましょう。
傍線を含む段落の直前の段落からみます。
だけども次へのステップを、彼女は逃してしまうのだ。本を読んでいると、ミイ姉に「ネクラ」とか「キモい」と言われたり、読んでいた本を取り上げられて隠されたりしたせいだとも言えるが、それだけでなく、めぐ美自信が性格を変えたかった。
いかがですか。
気になる言葉はありませんか?
〈生徒〉
先生、最後の「めぐ美自身が性格を変えたかった」という表現が気になります。
彼女は本が好きな自分を受け入れきれていない。そんな気がします。
〈先生〉
いいところに気づきましたね。
そこまでわかっていたら、素朴な疑問がわきますよね。
〈生徒〉
はい。なぜ、めぐ美は自分の性格を変えたかったのでしょう?
本を読むのが好きなのに、内気な自分をどこかで否定したいと思っていたのがなぜかとても気になります。
〈先生〉
素晴らしいです。
あなたはそうやって自分で考えを進められるのが強みですね。
文章を読んでいるときに抱いた疑問の答えを考えていくことが、本文を深く読み取るために必要なことなのです。
では、傍線の次の一文から読み進めましょう。
運動神経抜群で、男子より足が速いひなっちは、本など読まなかった。休み時間を告げるチャイムが鳴ると、真っ先に教室から飛び出してゆくような子だった。ドロケイでも脱走ゲームでもいつも大活躍のひなっちは、クラスの人気者だったから、そんな彼女に声をかけられて、嬉しかった。
いかがでしょう。ここで気になる表現はありますか。
〈生徒〉
「本など読まなかった」の「など」がちょっと気になります。「は」でもよかったと思うんです。それをわざわざ「など」にしたのには意味があるような気がします。
〈先生〉
いいところに気づきましたね。そうやって文の細部、特に助詞に気がいくようになるというのは素晴らしいことです。
では、ここで「など」を辞書で引いてみてください。
気になった言葉はすぐに辞書を引く。そんな習慣をつけられると大きな財産を得ることになりますよ。
〈生徒〉
はい。『明鏡』という辞書をお母さんが持っていたので、それを見てみます。
①類似の物事の中から例として示す。
②他にもあることを含みながら、特に一つを取り上げる。
③《否定的な表現を伴って》と取るに足りないものとして取り上げて否定の意を強める。
④《活用後の言い切りの形に付いて、発言や思考の表現を伴って》おおよその内容を反発の気持ちを込めて示す。
先生、これは③ですね。めぐ美が本を取るに足りないものとして否定的にとらえているということが、この「など」から読み取れるのですね。
これでますます気になりました。
なぜ、めぐ美は自分の好きな本を否定しようとするのか、本好きな自分を変えたいと思うのか。
〈先生〉
いいですね。では、次の段落です。
ひなっち、めぐ、と呼び合うようになった頃、めぐ美も彼女と同じく「人気者」というポジションの、端っこにいた。ひとりで本を読むのは寂しいこと、実際寂しくなくても、寂しそうにみられることだという考えを、めぐ美は自分に植えつけた。
ここで気になる表現はありますか?
〈生徒〉
「ひとりで本を読むのは寂しいこと、実際寂しくなくても、寂しそうにみられることだという考えを、めぐ美は自分に植えつけた」というところから、本当はめぐ美は本を読むのが好きだったのだとわかります。それなのに、本を読むのはいけないことだと無理して思い込もうとしていたとわかります。
〈先生〉
なぜ、そんなふうに思い込もうとしたのでしょうか。
〈生徒〉
「人気者」というポジションにいたかったからでしょうか。
〈先生〉
自分の考えに自信が持てないようですね。
ものを考える時の基本は、他の可能性と比べることです。
もし、めぐ美が本を読むのはいけないことだと思い込まなかったらどうなるかと考えてみるのです。
〈生徒〉
そうしたら、休み時間に本を読むことになって、「寂しそうにみられる」自分に戻ることになります。
そして、それは「人気者」というポジションから外れることになる。
やっぱり、「人気者」というポジションにいたかったからだとわかります。
先生、他の可能性と比べるってすごいですね!
先生、それからまた疑問がわいてきました。
なぜ、めぐ美は自分の好きなことをがまんしてでも「人気者」というポジションにこだわったのでしょう。
〈先生〉
今の質問は見事ですね。
こうやって疑問を持ちながら文章を読むことができたら、読解は簡単になりますよ。
「問い」があるから「答え」があるのです。
疑問を持つから読解が生まれるということなんですね。
では、その疑問を持ちながら次の文を読んでみましょう。
低学年の頃の自分は、大人数でわあって盛り上がるノリには気後れした。だけど、ひなっちに引っ張られて遊んでいるうちに、友達は自然と増えていったし、盛り上がることも楽しめるようになってきた。めぐ美は鬼ごっこやドロケイで活躍したし、友達から、友達の多い子だと思われるようになったら、学校が楽しくなった。
〈生徒〉
先生、今の最後の一文がとても重要だと思います。
「友達の多い子だと思われるようになったら、学校が楽しくなった」ということは、それまでめぐ美は学校が楽しくなかったということですよね。本を読むのが好きな寂しそうな子と思われていて学校が楽しくなかったけど、友達の多い子だと思われるようになって学校が楽しくなった。
友達もほとんどいなくて学校が楽しくなかったので、自分の性格を変えたかった、好きなことを我慢してでも「人気者」というポジションにこだわったということなんですね。
〈先生〉
そして、この段落の最後の一文につながります。
その自信は、本からでは得られないものだった。
さあ、それでは改めて変化の前と後とを整理してみましょう。
最初にまとめた内容を確認しましょう。
・「本が愉しかった頃のことを思い出した。せいぜい小学校の低学年くらいのことだった」
・「膝の上でそっと開くと知らない世界が広がった」
・「低学年の頃の自分は、大人数でわあっと盛り上がるノリには気後れした」
これにどんな内容が加わりますか。
〈生徒〉
・友達もほとんどいなくて学校が楽しめなかった。
・そんな自分の性格を変えたかった。
〈先生〉
いいですね。
では、変化後です。
・「めぐ美も彼女と同じく『人気者』というポジションの端っこにいた」
・「友達は自然と増えていったし、盛り上がることも楽しめるようになってきた」
・「めぐ美は鬼ごっこやドロケイで活躍したし、友達から、友達の多い子だと思われるようになったら、学校が楽しくなった。その自信は、本からでは、得られないものだった」
あとは、答えをまとめるだけです。
では、答えを書いてみてください。
生徒への手紙(2)【まさかの不合格。そして……】
2月2日滑り止めの学校の合格発表の日だった。
私の指導歴の中で最も驚いた不合格。
それが君に起きた。
2月1日は第一志望の最難関私大の附属校。
2日は23区内の進学校でおさえる。
3日は偏差値的には1日校を凌ぐ進学校。
1日が不合格の場合には4日に23区内の進学校。
1日と3日がダブル第一志望の位置付け、悪くても4日の学校に進学。
2日校への進学の可能性はほとんどない……予定だった。
合不合判定テストの結果こそ安全圏は2日校だけだったが、
過去問のできでは1日・3日も十二分に勝負できる状況だった。
特に3日の国語は合格者平均+20点が見込める状況まで来ていた。
選択肢を間違うことはほとんどなく、記述の失点以外は考えられない状況だった。
それほど君の国語は盤石の仕上がりだったのだ。
でも、その仕上がりのよさが私にとっての盲点となってしまった。
2日で落ちる学校などあるわけがないと思ってしまっていたのだ。
もし、2日校の中で落ちるリスクがあるとすればどこか? と考えていたら、
間違いなくこの学校を挙げたろう。
しかし、私は落ちるリスクを考えることもなく2日校は流してしまった。
上の子が通っていることもあり、他の学校を受けるよりは良いだろうと思ってしまったのだ。
君は国語で大きくかせぎ、社会・理科は合格者平均点程度、算数は合格者平均点と受験者平均点の間のどこかにおさまるのがパターンだった。
だから、国語は合格者平均点が低い学校で大きく稼ぐのが望ましかった。
そして、社会・理科は配点が大きい方が君にはよかった。
さらにいえば、算数は難しい問題を多く出題する学校の方がリスクは少なかった。
合格者平均点と受験者平均点の差がつきにくいから。
この2日校は君にとってリスクのある学校だった。
国語の合格者平均点と受験者平均点の差が少なく、
おまけに合格者平均点が80点を超えることまである。
つまり、ほとんど稼げないのだ。
さらに悪いことには、算数の合格者平均点まで高いときている。
そして、理科社会の配点は算数国語の半分である。
だから、国語理科社会のプラスは最悪10点ない可能性があったのだ。
いつもなら間違えない問題を算数で2問やったら不合格の可能性はあったはずだ。
そうなのだ。冷静に考えれば、いくら君でも不合格となる可能性はほんの数%はあったのだ。
不合格の報告を受けた瞬間、不合格になるとすればこのパターンだというのがひらめいていた。そして、それが起きるとすれば極度の緊張か、極端なまでの油断か。このいずれかしか考えられない。
でも、小学生だから、そういうこともあるはずだ。
こんなふうに思われる方もいらっしゃるかもしれない。
しかし、このレベルの子で落ちることは後にも先にもこの1度しかない。
そんなことが起きたのだ。
私がすべきことはたった一つ。
君と君のお母様の気持ちを明日の受験に切り替えさせること。
それだけだった。
まず、お母様からの「先生、何があったんでしょうか? 本人はできたと言っていたのですが」という言葉を受け、私の想定が正しいことが予測できた。
苦手な教科の場合、「あっ解ける」とか「できた」とかと思うと、最後の最後で足し算を忘れたり設問の要求と違うものを答えたりしてしまうもの。苦手教科だと、はやく次の問題に行きたくなってしまうから。
それが得意教科の場合は、ミスをして失点ということは避けたいから最後に設問を確認したりするんです。だから、ぶれることが少ない。
そんなことをお母様にお伝えして、力不足ではないので丁寧に受けられれば大丈夫だということをしっかりとお伝えした。
そして、君に伝えた。
「テストの状況は聞いたよ。いいかい、今から私が言うことだけを意識して明日は解くんだよ。問われたことを問われたとおりに答えること。それだけに夢中になっておいで」
他にも話した気がする。でも、大事なことはこれだけだった。
2月3日。
私は早朝から学校の校門前にいた。
ただただ君の到着を待った。
君への大きな信頼があった。
試験開始の50分前。
角を曲がって君とお母様の姿が見える。
私は満面の笑みで君を出迎える。
緊張で青白い顔だったが、凛とした綺麗な顔だった。
戦いに行く男の子の顔だった。
驚きの不合格を乗り越えて、
真剣に戦いにきた君は、その瞬間に勝利を得ていたのだろう。
君はきっと力を発揮する私はそう確信した。
あとは、その力が合格ラインに到達しているかどうかだけ。
さて、君の入試の結果について書こうと思う。
3日は1日に受けた第一志望校の発表。
この学校に受かるために君は努力をし続けたんだ。
なんとか合格していてほしい。
私はその一心で発表の時間を迎えた。
君からの連絡を待つ。
心臓が高鳴る。鼓動が速くなるのがわかる。
電話が鳴る。
「先生! 受かりました!」
結果、3日校も合格。
君は2校に合格し、1校は不合格に終わった。
この3日間は受験勉強の日々以上に君を成長させてくれたのではないだろうか。
そして、大きな学びを得たのではないだろうか。
自分の力を出し切るための勇気。
それが本当に大切なことだと。
君はその後、中学受験の生徒としてはありえない活躍をしたね。
そして、君という存在は多くの人に勇気を与えた。
君と出会えてよかった。ありがとう。
よくがんばったな。
また会おう!
生徒への手紙「筑駒を受験できなかった君へ」
あの日、君が泣きながら筑駒を受けたいと言ったことを私は忘れない。
筑駒の合格へ向けて君はがんばったんだ。
そして、それは私との約束でもあったから。
君の実力からすれば筑駒の可能性は50%。
盤石の状態で受けるためにも、2日は確実におさえる。
その計画が2日の夜に砕かれたのだ。
冷静に考えれば、3日の筑駒は回避の一択。
でも、君は筑駒受験にこだわった。
あの夜、お父様からの依頼を受け、私は君に話をした。
「明日は海城を受けなさい」
私は自分のいたらなさを心から責めていた。
もし自分にもう少し力があったら、君にこんな思いをさせずにすんだのに。
「筑駒受験はできなくても、君には次がある。まず、明日の受験をしっかり受け切っておいで。それでいいから」
あの時の君の表情は思い出せない。
でも、「先生すみませんでした」という言葉は忘れない。
結果、君は2日〜4日に受験した学校はすべて合格。
2日に不合格となった学校は3日に繰り上がった。
あと1〜2点の差。
君は、その足りなかった1〜2点を味わう必要があったんだね。
高3になったときの君は大きく成長をしていたね。
「あの時には甘さがあった。もっとやれたはずだった」という言葉を聞いて、大学入試の成功を確信したよ。
あの進学校で文武両道を貫きながら10番以内を守り続け、東大に現役で合格。
あの校舎にいた4年間は、ほとんどの生徒が同じ駅を使っていたから、 毎年2月1日〜3日は駅で生徒を送り出していたんだ。1月31日の夜は校舎に泊まって、生徒一人ひとりへの手紙を書く。みんなと過ごした日々を振り返り、自分の力を最大限に発揮できるように思いを込めて書いていた。
君がその手紙を高3の夏から自分の机の前に貼って受験勉強に励んだとお母様から聞いて、本当に嬉しかった。
筑駒を受けられなかった悔しさが君を成長させてくれたのかもしれないね。
2日に足りなかった1〜2点。
それが君を成長させてくれたんだね。
そして私自身も大いに成長させてくれたんだ。
あの時の◯◯があったおかげで、今の自分がある。
そうやって生きれば人生に失敗はないんだよね。
いつも応援しています。
また会おう!
国語が得意になる文章の読み方(第15回)
『虔十公園林』の第15回目です。
今回は、作者が話を面白くするために張っていた伏線が明らかにされます。どんな伏線があったかを思い出しながら読んでみてください。
《本文》
ところが次の日虔十は納屋で虫喰い大豆(まめ)を拾っていましたら林の方でそれはそれは大さわぎが聞こえました。
あっちでもこっちでも号令をかける声ラッパのまね、足ぶみの音それからまるでそこら中の鳥も飛びあがるようなどっと起こるわらい声、虔十はびっくりしてそっちへ行って見ました。
すると愕(おどろ)いたことは学校帰りの子供らが五十人も集まって一列になって歩調をそろえてその杉の木の間を行進しているのでした。
全く杉の列はどこを通っても並木道のようでした。それに青い服を着たような杉の木の方も列を組んであるいているように見えるのですから子供らのよろこび加減といったらとってもありません、みんな顔をまっ赤にしてもずのように叫んで杉の列の間を歩いているのでした。
その杉の列には、東京街道ロシヤ街道それから西洋街道というようにずんずん名前がついて行きました。
虔十もよろこんで杉のこっちにかくれながら口を大きくあいてはあはあ笑いました。
〈解説〉
「杉の列はどこを通っても並木道のようでした」という文から思い出してほしい表現があります。ちょっと考えてみてください。
「どこを通っても並木道のよう」と書いてあるのですから、通りがいくつもあることがわかりますよね。通りがいくつもあるということは、杉の木の列がいくつもあるということですね。ところで「並木」を『新明解国語辞典』で引くと、こう書いてあります。「幹線道路に沿って規則的に間隔を置いて植えてある木。」いかがでしょうか。これで、この杉林の間隔がそろっているかがわかりましたね。
ここまでくると思い出せますでしょうか。
虔十が木を植えている場面に「実にまっすぐに実に間隔正しくそれを掘ったのでした」と書かれていましたね。
あの表現は、虔十の几帳面さを表すだけでなく、子供たちが集まってくるための伏線になっていたのです。
さらに、子供たちが集まって行進しやすい杉林にするための伏線が他にもあることに気づけますか。
ちょっと考えてみてください。
では、解説です。まだ考えたい人は、一旦読むのをやめてくださいね。
さて、虔十の杉林に子供達が集まったのは「次の日」ですね。前日の出来事は、覚えていますか? もし忘れていたらこちらをご覧ください。
https://tanoshiijuken.hatenablog.com/entry/2021/02/08/182317
虔十は杉林の枝打ちをしたのです。下の方の枝を落としたので、子供達が行進しやすくなったのです。しかも、この杉林はそれほど高いものではありません。杉の上の方に残った枝に生えている葉っぱの緑が「青い服を着た」ように見えているのですね。
では、子供たちが集まる場所としての伏線を整理します。
1)虔十が間隔正しく植えたこと。
→どこを通っても並木道のようになった。
2)野原は下が粘土で杉が育ちにくい場所だった
→丈が九尺ぐらいまでしか育たなかった。
→枝打ちの結果、青い服を着た杉の木も列を組んでいるように見えた。
3)ひとりの百姓が冗談で虔十に枝打ちをしないのかと言った。
→行進しやすい場所になった。
いかがでしたか。
作者の意図を考えると小説がより面白くなりますよ。
今回の学びを活かして、自由に考えてみてください。
国語が得意になる文章の読み方(第14回)
『虔十公園林』の第14回目です。
丁寧に文章を読んでいくことで見えるものが増えますよね。
こういう喜びを多くの人に味わってもらえたら嬉しいです。
今回のブログでは、以下の2点を学びます。
①作者の表現上の工夫。
→対比からの抽象化につながります。
②記述問題のポイント。
→「なぜ」を残すな、ということを学びます。
《本文》
あっちでもこっちでも号令をかける声ラッパのまね、足ぶみの音それからまるでそこら中の鳥も飛びあがるようなどっと起こる笑い声、虔十はびっくりしてそっちへ行って見ました。
〈解説〉
この文からはいかにも楽しそうに遊んでいる様子が感じられますね。どんな工夫がされているのでしょうか。
号令をかける声
ラッパのまね
足ぶみの音
笑い声
このように体言が四つ並んでいるのです。
声がしていた、さらにはラッパのまねまで感じられる。なんて表現ではありませんね。
もし、この一文で設問を作るとしたら、「この一文から感じられることを、作者の表現上の工夫を意識して答えなさい」という感じですかね。
答えは、次のとおりです。
体言を四つ並べることによって、そこで遊んでいる人たちのいかにも楽しそうな様子が臨場感をもって伝わってくる。
いかがでしょうか。ちょっとした一文ですが、作者の工夫を意識して読むことって楽しいですよね。
それから、この一文の最後にあった「行って見ました」ですが、「行ってみました」ではないのですね。こうやって他の表現と対比させると、理解できることがありますね。
「〜してみる」というのは、ためしに…する、という意味になります。でも、今回は「行って見ました」なので、行って、そこで見ましたという感じも加わりますね。何が起きているのかを確かめるためにためしにそこへ行き、実際に自分の目で見た、というふうに感じることができます。
こんなふうに、対比させるとそれまで気づかなかったことを考えることができるかもしれません。その練習だと思ってくれれば十分です。
《本文》
すると愕(おどろ)いたことは学校帰りの子供らが五十人も集まって一列になって歩調をそろえてその杉の木の間を行進しているのでした。
〈解説〉
これはまさに驚きですよね。
杉林に五十人もの子供たちが集まって杉の木の間を行進しているのです。
さて、ここで一問作ってみましょう。
「なぜ、虔十は愕いたのですか。説明しなさい」
そんなの簡単だよ。
学校帰りの子供らが五十人も集まって一列になって歩調をそろえて杉の木の間を行進していたから。
これが正解です! と考える人も多いですよね。
ここで一つ、みなさんに記述問題の答えを書くときのポイントをお伝えします。
それは、「なぜ? を残さない」ということです。
今回は、虔十が愕いた理由を聞かれた問いです。
この答えだと、なぜ子供らが五十人も集まって杉の木の間を行進していると愕くのかという疑問が残ります。
そうなのです。これでは、愕いたきっかけを答えただけなのです。
一度本文を忘れて、愕くとはどういうことかを考えてみてください。それは、予想外のことが起きてびっくりしている状態ですよね。
ですから、先程の答えが予想外のことだったということを書き加える必要があるのです。
答えは、実際に自分で書いてまとめてみましょう。
国語が得意になる文章の読み方(第13回) 最後にメッセージがあるので是非お読みください。
『虔十公園林』の13回目です。
今回は、一緒に考えながら読み進めましょう。
本当に単純なことなのだけれど、実に大切なこと。
これをお伝えしたいと思います。
是非、最後までお読みください。
《本文》
下草はみじかくて綺麗でまるで仙人たちが碁でもうつ所のように見えました。
ところが
〈問い〉「ところが」に続く一文を想像して書いてください。
是非、実際に書いてみてください。
〈ねらい〉
この問いがあることによって、「下草」が「綺麗でまるで仙人たちが碁でもうつ所のように見え」る場所をイメージしましたよね。しかも、それがどんな場所かを考えたはずです。つまり、抽象化しようとしたのです。
この思考があると、続く表現を読んだ時に「読解」が生まれるのです。
《本文》
ところが次の日虔十は納屋で虫喰い大豆(まめ)を拾っていましたら林の方でそれはそれは大さわぎが聞こえました。
〈解説〉
いかがでしょうか。「ところが」の続きは「大さわぎ」でしたね。ということは、「ところが」の前に書かれているべき内容は「大さわぎ」の反対になりますね。つまり、静かでのんびりした感じだったのです。
では、改めて「下草はみじかくて綺麗でまるで仙人たちが碁でもうつ所のように見えました。」という文を考えてみましょう。
まず「綺麗」な場所に「仙人たちが」いることがわかります。「仙人」って一般の人々が暮らしている世界から離れて生きている人で、特別な力を持っていると言われている人なんです。神様のような人と考えるのがわかりやすいかもしれません。神様のような人たちが綺麗な場所にいる。そこは普通の人々がいるごみごみした世界とは違うということですよね。こうやって対比させると、静かで落ち着いた雰囲気を読み取ることができますね。
次に「碁でもうつ」を考えてみましょう。ここでも対比することで、その言葉を考えます。「碁」を「うつ」とは違いますよね。「碁でもうつ」という表現から、別に他のものでもよかったのということがわかります。つまり、真剣な勝負として碁をうつのではないということがわかります。一つ碁でもうって遊ぼうか、というような軽い感じがイメージされます。
以上2点をまとめると、静かでのんびりとした感じという読解ができますね。
さて、ここから学んでほしいことをお伝えします。
簡単にいうと接続詞を意識して本文を読んでほしいということです。
今回の「ところが」を意識し後との関係を確認することで、「ところが」の前の部分の読みを深めることができました。
そして、読みを深めるために対比した上での抽象化が大切だということもお伝えできたのではないかと思います。
ちょっとしたことを意識するかどうかで読解の深さが決まります。
でも、国語は意識すべきことが本当に少ないのです。
・対比からの抽象化で読みを深める。(見方を変えて別の情報を得ることと重なります)
・不足している情報を考える。
・筆者が言おうとしていることを考えながら読む。(これは当たり前ですね)
・接続詞を意識して読む。(これも当たり前)
・同じ言葉、同じような言葉を意識して読む。(これまた当たり前)
本当にこの程度のことです。
あとは、これを徹底するだけなんです。
単純だからこそ応用も利くし、誰でも定着できるようになります。
しかも、見方を変えて別の情報を得たり、不足している情報を考えたりなどは算数の思考と同じなのです。ですから、小学校で普通に授業についていけている子であれば、授業の復習を繰り返しているだけで、2年もあれば誰もが御三家を目指せるようになります。
だから、もう一つこだわってほしいのが語彙なのです。
本は読んでいた方がいいです。漫画でもいいです。活字にふれること、言葉にふれることが大切なのです。家庭内で保護者様が意識できることとして最も簡単なのは、難しい言葉を言った後で言い換えることです。これは確実に語彙が増えます。
語彙が増えていけば合格はより確実になると思ってください。
今は塾の中では普通でも、御三家に合格することだって十分に可能です。
是非がんばってください。