国語が得意になる文章の読み方(第9回)
前回の続きです。
平二が登場してきて言うセリフは何でしょうか?
〈本文〉
「やい。虔十、ここさ杉植えるなんてやっぱり馬鹿だな。第一おらの畑ぁ日影にならな」
虔十は顔を赤くして何か言いたそうにしましたが言えないでもじもじしました。
すると虔十の兄さんが、
「平二さん、お早うがす。」と言って向こうに立ちあがりましたので平二はぶつぶつ言いながらまたのっそりと向こうへいってしまいました。
・「やい。虔十」という表現から、平二が偉そうにものを言っていることがわかります。相手に対して威圧的な態度をとっていると言えます。
・「やっぱり馬鹿だな」という表現から、虔十は村のみんなに馬鹿にされていることが再確認されます。「やはり」のように、他のことが読み取れる表現は立ち止まって考える癖をつけましょう。「同じく」「相変わらず」「なおも」「いまだに」「まだ」「依然」「今もって」「案の定」……。
・「第一おらの畑ぁ日影にならな」は、ここに杉を植えるなという理由になっていることがわかります。もし、本当にここに杉を植えたことへの抗議だと仮定します。みなさんだったら、どんな言葉で抗議しますか。また、誰に抗議しますか。
もし本当に抗議するのであれば、「ここに植えた杉が伸びたらうちの畑が日陰になってしまうので、杉を植えるのはやめてくれ」というようなことを言うのではないでしょうか。そして、何よりも子どもからも馬鹿にされている虔十ではなくお父さんに言ったはずです。今回であればお兄さんに言った方がいいですよね。それなのに、お兄さんに声をかけられたら何も言わずに去っていったのです。
ここから平二の虔十への言葉は「言いがかり」「いやがらせ」だったということがわかります。
・「虔十は顔を赤くして何か言いたそうにしましたが言えないでもじもじしました。」
虔十が顔を赤くしているという表情があるので、ここから心情を読み取ります。心情把握の問題についての考え方については、きっと学んだことがあるかと思います。先生によって、塾によって言葉は違うかもしれませんが、基本的なところは変わりません。
まず、虔十が顔を赤くした原因を考えます。そのために、出来事を調べるとか、場面をおさえるとかと教わっているのではないでしょうか。
この場合は、平二に「やい。虔十、ここさ杉植えるなんてやっぱり馬鹿だな。第一おらの畑ぁ日影にならな」と言われたときです。なぜ、平二にこの言葉をかけられて顔を赤くしたのでしょうか。先ほど、読解したように平二の言葉は言いがかりでした。ですから、この場面は、自分がせっかく植えた杉を馬鹿にされ、言いがかりもつけられた場面です。こう読み取れれば、顔を赤くしたのは怒りだとわかります。
次に、虔十は何か言おうとしました。この流れから、杉を馬鹿にし言いがかりをつけてきた平二への文句だとわかります。しかし、それを言えないので「もじもじ」したのです。
この読解をもとにした選択肢問題を作ってみます。
問い 「もじもじ」しているときの虔十の気持ちとしてふさわさしいものを次の中から選び、
記号で答えなさい。
ア 平二に大切な杉を馬鹿にされたことに腹を立てたが、不平を言って怒らせたくないのでどうしてよいか困惑する気持ち。
イ 平二に杉を植えたことになんくせをつけられたのが嫌で、文句を言おうとしたがうまく言葉にできずもどかしい気持ち。
ウ 平二に自分の植えた杉をもとにして言いがかりをつけられたことが、言葉にできないほど悔しい気持ち。
エ 平二のようにみんなから嫌われる仕事をしている人間にまで、杉を植えたことを馬鹿にされつらく苦しい気持ち。
選択肢問題の答えを出すときには、記述問題のつもりで考えてください。まず、本文に根拠をとります。根拠をとらずに選択肢にいくと、作問者のワナにはまりやすくなります。消去法を使えるのは、国語が得意な生徒だけです。国語をできるようにするためには、記述だろうと選択肢だろうと、まず本文に根拠をとるための考え方を身につける必要があるのです。それでは、考え方を以下にまとめます。どんな問題でも使える考え方は太字にしておきます。
〈考え方〉
心情把握の問題ですから、「場面」を調べることから始めます。その際のポイントは、「いつ? と問いかけてきっかけを探すこと」です。
具体的には、いつ「もじもじ」したのかを調べます。すると、平二に自分が杉を植えたことを馬鹿にされた上に、言いがかりをつけられ、何か言いたいのだけれど言えなかったときだとわかります。
次の問いかけは、単純です。今、確認した場面の中でわからないことがあるので、それを考えます。すなわち、何が言いたかったのかです。それは、直前に「顔を赤くして」があるので、言いがかりをつけられたことへの文句を言いたかったのだとわかります。
以上をまとめると、杉を馬鹿にし、言いがかりをつけてきた平二への文句を言えないので「もじもじ」していることがわかります。最後のつめは、「もじもじ」を言葉にすることです。文句を言いたいのに言えないのですから、もどかしいというのがいいですね。
ちなみに、「もどかしい」を辞書で引いてみます。「思うようにならず、いらいらしている。」とあります。
選択肢を確認する前に再度ポイントの整理です。以下の3点が含まれているかを調べます。
①平二に杉のことを馬鹿にされ、言いがかりをつけられた。重要なのは後者。
②平二に文句を言いたかった。
③文句を言えないのがもどかしい。
ア 平二に大切な杉を馬鹿にされたことに腹を立てたが、不平を言って怒らせたくないのでどうしてよいか困惑する気持ち。
①は前半しか含まれていない。この段階で×。②がない。③は「困惑」という言葉になっているのはよいが、理由がずれている。①〜③のすべてが×。
イ 平二に杉を植えたことになんくせをつけられたのが嫌で、文句を言おうとしたがうまく言葉にできずもどかしい気持ち。
①なんくせをつけられた=言いがかりをつけられた。「なんくせ」がわからないから×としないようにしたいですね。②は直接書いてあります。③もOKです。これが正解ですね。
ウ 平二に自分の植えた杉をもとにして言いがかりをつけられたことが、言葉にできないほど悔しい気持ち。
①は○。②何か言おうとしたの内容にはふれられていません。③「言葉にできないほど悔しい」ではなく、「言葉にできないので悔しい」とならなければなりません。イの「なんくせ」を削るとこっちを選んでしまいますね。
エ 平二のようにみんなから嫌われる仕事をしている人間にまで、杉を植えたことを馬鹿にされつらく苦しい気持ち。
①はありません。②もありません。③もありません。しかし、平二がみんなから嫌われる仕事をしていることは本文に書かれています。杉を植えたことを馬鹿にされたことも書かれています。であれば、つらく苦しいと判断することもできます。つまり、この選択肢があっているかと考えて本文に確かめにいくと間違えやすいということなのです。この問いでエを選んでいる子は、読解力はあっても点をなかなかとれない子ですよね。でも、こういう子はあっという間に成績が上がります。是非、ブログを読み返してください。
おまけです。「言いがかり」を辞書で引いてみました。
ちょっとでも気になった言葉は辞書を引く習慣をつけたいものです。
・理由にならないことをむりやりにこじつけて、相手につっかかること。そのような理由や口実。(『例解新国語辞典』より)
・口実を作って、難癖をつけること。また、その事柄。(『大辞泉』より)
・人を責め困らせるために言い立てる、事実無根の口実。なんくせ。いいかけ。(『日本国語大辞典』より)
※「口実」は書けるようにしておきましょう。